浜松の思い出

 とても日付が経ってしまいましたが、、、2月18日の浜松。福祉交流センターに詰めかけた600人ほどのお客様に見守られ、「点字楽譜を讃えるコンサート〜島津成悠を忍びつつ〜」が盛大に催されました。

 全国からお越しになったお客様、企画を立ち上げ素晴らしいイベントにしてくださった斯波千秋さんを始めとするNPO法人六星の皆様、そして何より私の演奏を美しい彩りで支えてくださった和波孝禧先生、本当に本当にありがとうございました!!

 箏の道に学び始めて30年以上になるのですが、それを大きく支えてくれたのはやはり点字楽譜です。香川県の平井点字社から発行されていた楽譜を学び、でもそれだけではとてもとても足りなくて。浪人生活が始まったこともあり、途方に暮れていた時にご縁を通じて次なる大きなお力添えをくださったのが、このたびのイベントの主役でもあられた故島津成悠先生でした。

 先生は、浜松盲学校を退職された直後から、初めて触ったパソコンを使って、これまで書き留めておられた手書きの楽譜をおよそ5年ほどの間に、なんと250曲ほど、データに残されたのです。もう一度言います。初めて触ったパソコンを使ってです。

 それまでは当然手書きの楽譜が主流でした。手書きだと何が大変か。点字は1つでも手の打ち方を間違えると、音の高さも長さも大きく変わってしまったりもするんです。だからいざ修正しようと思うと、1度文字を全部の点で埋めて書きつぶして、それから正しい形を書く。これが本当に大変なんです。私を含め先輩はみんなその道で生きてきました。

 それがデータになると何が違うか。簡単に正しい文字に修正もできるし、当然自分の読みやすいように書き換えた別のデータも作ることができる。島津先生はそのまず第一歩、60歳を超えた年齢で踏み出してくださったのです。その大きな恩恵に、私はどれだけ預かれたのか、計り知れません。

 その支えもあって、私は時間がかかりながらも大学に進むことができ、今もこうして歩めています。その時の命の恩人でもある島津先生を偲んでと言うコンサートですから、当然力み倒しますよね。笑
 その浜松で、(怖いながらも)どうしても演奏したかった曲が、昭和35年島津成悠作曲による「森の幻想」でした。演奏ライフのうち8割は古典系の演目ばかりを弾いている私には、あまり手は出したくないような難しい技法ばかりが盛り込まれていたんですが、「今やらなければいつやるの?」というわけで、トライすることに。
 幸い手書きの楽譜を見せていただく幸運にも恵まれ、データに打ち込んで楽譜は完成。しかしやはり練習は苦難の連続。糸を2本いっぺんに抑えるとか、指がつりそうになるようなポジションでの連続早弾きとか。湿布薬の塗り薬とも大分仲良くしましたが、それでも本当に楽しかった!

 もちろん森の幻想だけでなく、お馴染み宮城道雄先生作曲の、みんな知ってる「春の海」や、自作の「たれかおもはむ」にも、和波先生にはご一緒していただき、とにかくリハーサルも緊張の連続でした。なんというか、自分の手の内に入っていない曲は、演奏するときにはいつもよりも大きな緊張が押し寄せるものですね。でもそんな極限状態にあっても、和波先生のバイオリンの透き通るような音色とゆったりと揺れ動くまるで呼吸をするようなフレーズに身を任せていると、それこそ感じたことのない世界へ誘っていただいているようで、リハーサルの一瞬一瞬が貴重で濃密な時間に変わっていったのでした。

 そして当日。舞台裏でお会いした多くの方々。もちろん島津先生のご家族の方もたくさんお話しでき、うまく言えませんが、ありし日の島津先生を度々感じながらの幸せの本番。舞台の上にいた45分と言う時間も、本当にあっという間でした。演奏会のフィナーレは和波先生と土屋美寧子先生の圧巻の美しいハーモニー。ステージ上では、たびたび点字楽譜を使うことの大切さも解いておられ、私自身が今までやってきたことも決して間違いではなかったんだ、ということも実感できました。
 まだまだ書き足りないような気がしますが、生前にお伝えすることができなかった島津先生への精一杯の感謝の思いを、このたびやっとお伝えできたような気がしています。
 改めまして、いろんな形でご一緒させていただけたすべての方々に、心より感謝申し上げます。本当に本当にありがとうございました!!!