振り返りにつづる〜東大寺での新曲奉納〜

振り返りに 5月下旬 東大寺での新曲奉納のことについて書きます。

晴れ渡った5月25日、奈良の東大寺で行われた、狂言奉納「大仏くらべ」の折、
私も、箏と十七絃による二重奏「こころね 東大寺より」を、初演・奉納させていただきました。

芸大時代の同期生だった大江隆子さんが、このひとときを発案され、狂言の脚本と新曲の作詞を手がけられました。

タイトルを聞いたのは去年の秋。ブログタイトルと同じ「こころね」の文字に、偶然のすごさを感じました。
歌詞には「心音美しき東大寺」の風情が託されていました。

年が明けて、私も奈良での打ち合わせにご一緒し、お寺の方に、普段は入ることのできない場所をご案内いただきました。
回廊を通って大仏殿へ。地面から見上げる高さ2mの辺りは、ちょうど、蓮の葉で飾られた、大仏様の足元。
その脇には、両腕で包めるほどのおリンがありました。ここではあえて、鐘と書きます。

そして、その音が放たれた時、私の体はどこかに吸い込まれました、いや、包まれたのかもしれません。
上を向いている鐘に、頭から吸い込まれて、天に上るような、
寒い日なのに、ずぅっと、暖かく包まれるような。
いつまでも響き続けた、低温と中音の世界の中で、
私は確かに、もうこのまま、自分はどうなってもいい。そんな感動に浸り、
この世界を表現するのは十七絃しかないと、作曲で初めて、十七絃を取り入れることを決めました。

三月には、お水取りに響く、たくさんの僧の声を聴き、
「南無観」のリズムに魅了されて、いよいよ創作がスタートしたのでした。

いうまでもなく、苦しんだ時期はありましたが、企画に携わる多くの方のパワーにも支えられて、無事完成。

先輩の永池あかりさんに箏をお願いし、私は十七絃を奏で、歌は斉唱しました。

冬に聴いた鐘の音で幕が明ける。

歌詞の冒頭には「…雲のゆくへや とほつ世の人」という歌が添えられているのですが。
これは大江さんと私の、たまたま共通の知り合いでもあった、地元奈良の柳井尚美さんの歌で、古都の変わらぬ良さが漂っています。

その歌を通っていよいよ曲の中に入っていきます。

長い間奏部分、いわゆる手事部分に、あの「南無観」の掛け合いリズムを納め、
曲の最後では、ノリコボシの花の開く様子と、あの鐘の感動を歌いました。

周りの障子がすべて取り外された本坊には、本当に爽やかな五月の風。
ここも、普段は入ることができない場所です。
奉納のひとときに立ちあわれた皆様の前で、このようなひとときをいただけたことに、
今も、心からの感謝の気持でおります。

改めまして、お世話になった皆様、本当にありがとうございました!こころね